蛞蝓の海


2024年04月12日執筆
2024年12月21日修正
『蛞蝓の海』

 両手で重たいエサを引きずりながら、薄暗い地下室への階段をコツンコツンとハイヒールで高い音を鳴らしながら下る。この階段と地下室は四方全てがコンクリートで出来ていて、そこにいるだけでも常に妙な緊張感があった。異様な程静かで、その足音と呼吸音、布の擦れる音だけがその空間に響いている。
 暫く下り続けると、少しの踊り場の先、重厚な作りの鉄の扉がある。引きずっていたそれから手を放して、両手で力を込めて、その扉を開けた。
 その途端に、悪臭が漂う。それは様々な匂いが混ざりあった物だ。肉が腐った様な鼻にこびりつく嫌な匂い。傷口から出てくる浸出液や、胃液、そういった体液に似ている酸っぱい匂い。鉄や血合いの匂い。渋い木の匂い。海の様な匂い。
 ハエがそこら中に飛んでいて、ブーン……とウザったい羽音を立てていた。
 扉の先は床……というより底が深くなっている。今立っているコンクリートの踊り場との差は、大体2メートルくらいだろうか。その2メートルの差を埋めるのが、悪臭の原因である。
 それは大量の蛞蝓。大量の蛞蝓が絡み合い、重なり合い、深さ五〇センチの絶え間なく蠢く蛞蝓の海を作っている。
 その海の中には、所々バラバラになった人骨が浮かんでいる。名前の分からない細長い骨が多く、恥骨とか頭蓋骨みたいな分かりやすい物は見た事はなかった。きっと、蛞蝓の海に沈んでいるのだろう。腐りかけの死体も。
 この蛞蝓達は、全員私のペットである。人骨も、エサとして与えた死体の物だろう。この奇妙な地下室の作りは、蛞蝓の海を作る為のものである。海と言っても、2メートル×2メートルと狭くはあるが。
「ナメちゃん達~、エサよ~」
 鉄の扉が開き切ると、優しく、愛の込めた、親戚の子供に使う様な甘ったるい間延びした声を出して、引きずっていた死体を蛞蝓の海に放り込んだ。
 蛞蝓はのっそりと歩くが、その死体は自分の体の重さで蛞蝓の海へ沈んでいく。皮膚の橙色が、蛞蝓の黒色が混じった茶色で埋め付くされる。
 遠くから見れば液体の様に見えるが、一つ一つが塊である。小さい体には一体一体もやのような黒色の模様が体の上側に刻まれており、頭にはコンテナの様な大触角と、髭の様な小触覚を生やしている。体の右側には不自然に空いた呼吸孔が空いていて、ひくひくと動いていた。一匹一匹、自分の物か他の個体の物か、粘液が体に纏わりついてヌメヌメとしていそうで、蛞蝓と蛞蝓の隙間には乙女の髪の様に細い糸がひいている。蛞蝓はシンプルな様で複雑な作りだった。
 蛞蝓達は死体を沈ませながら、それの鼻の穴や服の隙間へとゆっくり侵入する。歩いた後に粘液の道を残す事なく、続々と次の蛞蝓が後に続く。少しのぬっとりとした音だけを地下室に残して、その死体は見えなくなった。
 その場から離れようと後ろを向いて、一歩進むと、グチャっと音を立てて、何かを踏んだ。見下ろすと、足元に蛞蝓がいた。思わず、あっと声が出る。
「ごめんね~」
 そう言って、その蛞蝓を両手で丁寧に持って、蛞蝓の海の中に戻そうとすると、一匹だけじゃなくて、沢山の蛞蝓が踊り場に出てきていた。
「あーあー、こんなに出てきちゃってぇ」
 蛞蝓を両手で一匹一匹拾うと、生きているのに生物と程遠い程冷たく、ひんやりしている。踊り場のギリギリの所で膝立ちになって、蛞蝓の海に彼らを落とそうとその手を傾けた。しかし、手から離れようとしない。
 体を大きく前に傾けて、蛞蝓の海と手の距離を近づけ、手を払って振り落とそうとした。手と近づけた所の蛞蝓の海が盛り上がった。その触角は私の手を向いている。こんな事はなかったので、少し不気味に感じた。
「なあに?」
 そこはどんどんと盛り上がって、ゆっくりな様で素早く、私の手を呑み込んだ。やはり、冷たい。ネバネバとした粘液の感覚も伝わってくる。蛞蝓は私の体をつたり、すぐに肘まで包まれた。
「あ、ちょっと、ヤダ~」
 焦燥感を感じて体を起こそうとしたが、想像以上に蛞蝓の塊が重く、動かせない。服の袖から蛞蝓は入り込み、体の体温がどんどんと奪われる。手についた蛞蝓の塊は徐々に重くなり、体は前に傾く。その度にバランスが取りづらくなっていき、蛞蝓の海は眼前に来ていた。その瞬間だけは群れで出来た蛞蝓の海はまるで一つの生き物の様に見えた。肩まで登ってきた蛞蝓は重なりあい、分厚く形成されている。
「ちょ、ちょっと!」
 頭から食べられるのに、さほど時間はかからなかった。思わず息を止めて、目を強く瞑った。
 冷たい蛞蝓に体が冷える。蛞蝓が体に這い、つたり、まとわりつく。皮膚の上を進む、ゆっくりとした蛞蝓の歩みは、私を確かに確実に選別する様な偏執さ、私を弄ぶ様な官能さを感じさせられる。
 唇の上を進み、瞼の上を歩き、髪の毛一本一本と絡まる。耳の穴に蛞蝓が侵入し、ヌチャっと最初に聞こえてから、耳が詰まって何も聞こえなくなった。鼻の穴にも蛞蝓が入ってきて、吹き出したかったが、息は出なかった。鼻の中から、顔の中心を、蛞蝓に這われて、鼻詰まりみたいになる。気持ちが悪い。ずっと呼吸を止めていたせいで、苦しくなってくる。もう限界だと少し口を開けて息を吸うと、その隙間からも蛞蝓が入ってくる。手で取りたかったが、水の中の様に体を動かす時の様に抵抗がかかって、それがあまりにも重く、腕すら動かせない。腕に意識を向けると、枝に巻き付くみたいに、指に蛞蝓が巻き付いている事に気がついた。
 蛞蝓は口の中を歩き、喉、喉の奥を歩く。追い出そうとして喉を締めたり戻したりする。しかし、意味はなかった。しばらくすると、喉のちょっと下がチクッと傷んだ。思わず声が出て、さらに大量の蛞蝓が口に入る。それは口が閉じられない程に。
 胃がひっくり返りそうな程の強烈な吐き気に襲われる。口から喉にかけて、蛞蝓達が噛んでいるのか、チクチクと痛みがして、それは内側から肉をえぐられるような激痛に変わる。体の中から蛞蝓に食べられている。
 耳の中も、鼻の中も蛞蝓に噛まれ始める。その間も皮膚の表面は蛞蝓が歩いている。蛞蝓で塞がれて息も出来ないので、次第に、意識は薄くなっていった。


コメント

 なんで蛞蝓に死体あげてんの?
 そいつ誰なの???

 ぶっちゃけ、ストーリーより表現にこだわってた頃のヤツなんで、ストーリーはほぼほぼないです。
 表現力についてですが、バカだったので(今もだけど)それもないです。カスの作文。
 これは、容量を圧迫するだけのゴミです。(なんか自信作に思ってたのが馬鹿みたい)
 これを書いてた時、一週間くらい蛞蝓の夢を見てたのですが、そんな犠牲を伴って書く程の価値はこれにない。
 落としたばかりの死体に体がぶつかるシーンとかかけばよかった。
 それと、修正したけど、ヒロインのセリフがオジサン臭くてクリビツテンギョー!
 電子包丁でした。


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