蛞蝓の海


2024年04月15日執筆
2024年12月26日修正
『しやわせ』

 生きてきた意味などなかった。
 誰にも影響を与えられず、何者にもなれず。誰かを、名前のない感情にさせた事はあっただろうか。
 無職で親の仕送りで生活していて、1日の殆どを無気力に生きている。そんな人、沢山いる。自分にしか出来ない生き方をしたいと思った。

 3月も終わりかけた頃のある日。小学校の通学区域には、卒業式帰りの子供達がゾロゾロと帰っていた。新品の制服を着て、中学生という憧れへが後一歩の所へ近づいた事に瞳をキラキラとさせている。
 近所で一番安いレンタカーを借りて窓から子供達をザッと見る。そして、1番小柄な娘に標的を定めた。
 少し先取りして、人目のない所で車を止め、降りる。その娘がこちらへ来るのを少し待った。その娘の姿が見え、それが軽い足取りで通り過ぎた瞬間、後ろから口を塞いだ。小さい体を持ち上げて、車に連れ込んだ。
 やってしまった。そんな罪悪感でずっと心がいっぱいだった。でも、それよりもどこかで高ぶるような感情が強く湧いた。
 着ていた上着を脱いで、噛ませて、喋られないようにする。勿論、頭の後ろで結んだ。動けないように、小さい体の上に乗っかった。まずは、どうしよう。

 匂い。まずは匂いを嗅いでみた。わざとらしいソーピーな花の匂いがする。花の匂いとかよく分かんないけど、薔薇とかチューリップとか、そんな感じ。初めて女の子の匂いを嗅いだ。こういう匂いって、どこから来るのだろう。やっぱり、柔軟剤かな。
 その娘は目から涙を流しながら、可愛らしく額に汗をジットリと滲ませる。
 このまま殺したり、純白を汚すのはありきたりだ。その子が持っていた筒に入った卒業証書を手にとって見る。長い間筒の中に入っていたせいで何もしなくとも勝手に丸まるその紙を引きちぎってみた。
 娘はその可愛くもない幸の薄そうな顔の小さな目を大きくした。目の縁から流していた涙の量が増える。呻きのような低い声が耳に届いた。引きちぎった紙を口に含んで、ゴワゴワとしたそれを数回咀嚼すると、その顔に吐きつける。
 ああ、見出したかもしれない。他人の積み上げた物を崩す時に、そこに、最高の背徳があった。

 ズボンのチャックをおろして、娘に、セーラー服に、尿をかけた。そのスーツ生地はアンモニア臭のする生暖かい水を弾いたが、次第にそれは染み込んでいった。
 わざわざ犯罪を犯してまで、こんな事する人はそうそういない。明日のニュースは私でいっぱいか。彼女の細い目を人指指と親指で開かせると、眼球が本当に球型だという事を認識した。涙がどこから出てくるか見たかったが、眼球の下から湧き出ているようにしか見えない。外の光でハイライトの入ったその目を、舐めてみる。涙の味か、しょっぱいようで苦かった。
 その娘は私の手を押しのけようとする。一旦手を放してやって、どうするか見てみる。しかし、つまらない事に、目を痛そうに抑えるだけだった。
 信じるかどうか分からないが、適当に嘘をついてみる。
「俺は、お前のお母さんからお願いされてるんだよ。バカに痛い目を見せて、利口にしてやれって」
「俺だってお前みたいな奴の相手したくないよ。可愛くないし」
「お前が我儘を言っていたせいで、中学には行けないよ。全部、自分のせいだよ」
「友達に別れの挨拶を言う必要はないから。みんな友達のフリしてるだけだし」
 信じたはどうかは分からないが、頭を振りながら顔を真っ赤にした。大量の涙だけじゃなくて、鼻水も溢れて、噛ませていた上着に涎が滲んでいた。女がみっともない物である。
 セーラー服を無理やり脱がして、下の運動着も、下着も全部脱がして真っ裸にした。噛ませた私の上着も返してもらい、そのまま車から追い出した。
「終わりだよ。帰って帰って」
「嫌です。服返してください」
 汚い顔でヨレヨレとそういった。画像を加工したみたいに顔が赤色になる事で本当にあったのだな。前かがみにしていて、腹の当たりが少し段になっていた。最初は面白かったが、段々としつこく感じてきたので、少し後ろに下がってから轢いてやろうとしたら、胸と股を隠しながら小走りで帰っていった。靴も脱がしてやったらよかったかな。車で追いかけると、そこを隠す事さえ忘れて、本気で走る。面白いからスマホで動画を取った。
 帰りにビールを買っていこう。きっと、いい肴になる。
 憂鬱な気分が、ちょっと晴れた。


コメント

 小学校の頃、別にレズって訳じゃないけど好きな女性の先輩が居て、彼女をイメージして書いてました。
 小柄でめちゃくちゃ可愛かった。


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