2024年04月12日執筆
2024年12月23日修正
『少年ロマン』
心と体は繋がっているとはよく言った物だ。ただの水を薬と言って病人に飲ませても、その病人が薬の効能を信じ切っていれば、病気が治ったりする事もあるという。
体を動かすのも、何かを考えるのも同じ脳で行われている。別に関係があっても不思議ではないだろう。
私は昔から、女を食べてみたいなと考えていた。可愛すぎて食べちゃいたいとかじゃなくて、本当に美味しそうだと思っていた。柔らかそうで、甘そうで。
牛と鳥と豚と一緒で、人も同じ肉で出来ているのに、どうして人だけ食べないのか、たびたび考える事があった。いや、それは考えるまでもなく、倫理観という物があるから、というのは理解している。こう言った趣味というのは、数多の人間と共存する社会において、反社会的とみなされる。だから、誰にも言った事はない。
でも心から納得はした事はなかった。生まれつき腕がない人には義手しか与える事ができないように、今社会生活で振る舞っている倫理観は完全な自分の心の一部ではなかった。
第二次世界大戦中のルソン島の戦いでは、死んだ兵士を食べる事が最高の道徳とされていて、そんな価値観が今の日本に広まって、残っていればいいのに、とよく思う。それかまた大きな戦争が起こればな、とも。もし結婚して妻が死んだら、火葬するより食ってやった方が喜ぶだろうと思っていた。
でも思春期当たりか。女から見た自分を意識し初めた頃。女を食べる事を考えると、頭痛や腹痛がした。怪我などは勿論していないし、しっかり休んで万全の状態でも、女の食べ方を考えると、耐えられない位痛かった。
親に医者へ行かせてもらうと、カウンセラーと二人っきりになって、全て話した。女の子を食べたかった事も、その事を考えると激痛に襲われる事も。
その先生は「罪悪感の現れ」と言っていた。
家に帰ると、母親に頬をぶたれたのをはっきりと覚えている。それから大きくなる度に、女子を食べる事への罪悪感が湧いて、その意識の分だけ痛みが増していった。
ただ、すぐに罪悪感の沸かない食の対象は見つかった。醜い女と少年である。肥満だったり毛むくじゃらだったり、出っ歯だったりと不潔な女、文学やスポーツを頑張る中学生くらいの健やかな少年に、強く食欲を感じる。きっとそれらは女性の様な完全的な恋愛対象ではなく、自分の中のそのラインに及ばずとも近い所にいるのだろう。
特に自分がこだわったのは少年である。小柄で子供の様な低身長なのがいい、学ランが身の丈にあっていない様な。
生地がまっすぐと伸びた新品の学ランの、12歳あたりの少年からすれば未体験であろうスーツ生地を皿にするのだ。その上には刺身のように綺麗に切った体と、生首を活き造りのように乗せて、まだ子供らしさと女々しさの残る可愛らしい、見ている私も健気な気持ちになれるその端麗でも醜悪でもなんでもない顔を見ながら、血の味がする肉を食べてやるのだ。美術部や吹奏楽部のような文化系の部活に入っている少年なら、その肉はやらわかいだろう。その少年は眼鏡をかけ、身長は一七〇センチに到達しない程で、頬に少しのそばかすをつけているのだ。もし、陸上部や野球部のような運動系の部活ならばその肉は筋肉質で硬いのだろう。サッカー部や陸上部の様な走る要素がある部活なのなら足を、野球部やバレーボールなど手を使うなら手を食べたい。きっと頑張って鍛えたんだろう。顔は……野球部なら丸坊主だろうか。平均よりも少し下くらいの、ひょうきんな性格が伺える顔立ちなのだ。身長はかなり高いか。陸上部なら私的な好みで低身長な方がいい。幼く、どこかしら自信げのある顔で、少しベタだが、鼻の当たりに絆創膏をつけているような。
他にも、どんな少年がいて、どんな風に食べてやろうか。ずっと、ずっとずっとその事ばかりを考えていた。心身ともに成長した今も……。
今日、有給を取った。昔、自分が何時に帰っていたかなんて覚えていなかったから、ネットで中学生の下校時間を調べて、十六時くらいから近くの中学校の通学路の電柱にもたれかかって、待ち合わせを装うように待機していた。その通学路は田んぼと田んぼの間に黄色い土が固まってできた道で、田舎なのもあり人通りがかなり少ない。
四十分くらい待っていると、部活がないのか早く終わったのか、下校する中学生の姿が見え始めてくる。ただ、やっぱり自転車通学が多いか。歩いて帰っている3人組の男子中学生もいたが、3人組だし、全員身長が高くて反撃が怖かったのでスキップ。
しばらくすると一人、歩いて帰っている小柄の少年を見つけた。身長は一四〇と一五〇の境目くらいか。後に続く学生はいない。そのまま殴ってしまってもいいだろうか。
少年が自分の前を通り過ぎると、後ろから頭を殴りかかって見た。
「痛い!」
そう声を上げて、彼は振り返った。しかし、その時間は非常に短く、すぐに逃げるように走り出しす。いや、実際逃げている。背中に背負っていたバッグで頭をかばうように隠しながら。続けて叫びだす。
「誰かー!誰か!助けてください!」
防犯ブザーは持っていないのか。どのみち、ここら辺にその声が届くような人はいない。彼を追いかけて、今度は肩を掴んで逃げられないようにしてトンカチで首を何回も何回も叩きつけてみた。暫くは助けて助けてと叫んでいたが、次第に痛い、やめてくださいという私一人への懇願に代わり、その後すぐに体の力がドッと抜ける。地面に血がつかないように、せっせと抱き上げて、家へ持ち帰った。
家に帰るとすぐ台所に行って、服を脱がし真っ裸にする。少しくたびれた学ランは丁寧にハンガーにかけておいた。
低身長でも食材としては大きすぎるので、床で四肢と頭を分けた。やはり体の芯という事もあり骨はかなり硬い。両手で体重をかけ、やっと体と離れた。頭は取り敢えず、冷蔵庫に入れておく。
小さい腹を開き、中の内臓は大きな鍋に入れておく。胃と腸の中の内容物の処理は素人には多分無理じゃないのだろうか。人間の裁き方なんて本もあるはずないし。腰の当たりも恥骨が複雑で素人には処理が難しそうだったので、内臓と一緒に大きな鍋に入れた。これは後でドロドロに煮詰め骨と一緒に山に埋める。何かの事件でそう遺体を処理していたという事を聞いた事があった。肋骨やその他大きい骨も纏めて大きな鍋に入れる。
肉と皮膚と毛だけになった体はぶつ切りにする。皮膚は魚のように剥ごうと思ったが、思った以上に柔らかく、肉もついてきて勿体ないが表面を切った。鶏肉のように皮が美味しいかもしれないので、その皮と、皮がついたままの肉を残しておく。皮についている毛は使う時に使う分だけカミソリで剃ったり焼けばいいだろうか。
食べ方はステーキ、ハンバーグに生姜焼き。色々迷ったが、ずっとやりたかった活造りにする。生の肉ならユッケの方がいいは思ったが、万が一牛と同じ味なら人でやった意味がないしな。
今回使うのは全て皮膚の切った肉だ。部位は腕、足の塊を一つずつと、背中の塊を二つ。
血だらけになったまな板を一旦洗って、腕、足、背中の肉を一つずつ刺身のように着る。こういった作業はした事がなかったので、最初は醜く、グズグズで、すぐに崩れてしまったが、最後の方は店で出される程じゃないがある程度綺麗には作れるようになってきた。
もう一つの背中の塊はミキサーにかけ、ドロドロにして、キッチンペーパーでこす。そしてコーラで1:1で割った。血をこうして飲んでいる殺人鬼の話を聞いた事がある。実際にはこれは、人肉ジュースという表現が正しそうではあるが。
学ランを丁寧に畳み、冷蔵庫から取り出した生首を左側の奥に置く。そして、切った刺身の中から綺麗な物を選び、腕、足、背中と部位ごとに別々に並べる。コーラ割り人肉ジュースは適当なコップに注ぎ、今日の晩飯が完成した。
ああ、ひとつ忘れてた。調味料がない。
取り敢えず、わさび醤油と味付けポン酢だけ用意して、これで本当の本当に完成した。
この光景はずっと、私の中のロマンであった。ずっとやりたかった事で、別に新しい事なんかじゃあない。
箸を持ち、少し行儀悪いがカチカチと鳴らしながらどれから食べようか見定める。時々、その青ざめた可愛らしい顔を見ながら。
取り敢えず、最初は何もつけずに頂いてみよう。
まずは腕の肉から頂いた。少し硬いが、擦り切る様にするとちぎれる。……中々、血の味が強い。噛むたびに血が溢れ、鉄の味しか感じられない。血抜きをしておけばよかったか。やり方もわからんが。
背中の肉もいただいてみたが、脂身が多く、しつこい。口内の温度で少し溶けた脂が口の中でいやあに残る。旨味のない脂だ。
足の肉は筋肉質でゴム毬のように固く弾力があり、脂っぽさと血生臭さを兼ね備えている。
どれも、そのままで食べるのは最悪という所か。
次はわさび醤油をつけてみる。
腕の肉はまあまあと言ったところか。血の味があまりに強すぎて、醤油をべったりとつけてやっと味が感じられる。鉄の味と醤油のコクと塩味が喧嘩しているようで、まとまっている。
背中の肉は美味しいといっていいだろう。矛盾しているかもしれないが、質の悪い大トロみたいな……。わさびがいいアクセントである。
足の肉もけっこういい。味があまりないので、なんにでも合いそうだ。個人的な考えだと、噛みごたえのある食べ物と醤油の組み合わせはかなりいいと思っているので、これはベストな組み合わせだ。
味付きポン酢もやってみよう。
腕の肉はかなり合う。しつこい物とあっさりした物はやはりセットだろうか。かなり美味しい。
背中もヌットリした嫌な脂を、刺身とはかけ離れているが一種の美味として味わえる。
足は塩味の強い醤油と比べれば少し物足りないが、これはこれで美味しいと言ったところか。
そうだ。人肉ジュースを飲み忘れていたか。口をつけてみると、甘ったるいのか血生臭いのか分からない中途半端な物になっていた。炭酸も薄まり、コーラの風味と鉄臭さが喉の奥でぶつかっている。人工的な甘さと血のエグみを同時に感じた事はなかった。ただこれはこれで癖になりそうな、他に飲んだ事のない味だった。まあ、誰もやらないだけだが。
彼が持っていたバッグも家に持ち帰っていたので、食べながらついでに探ってみる。このバッグと皿にした学ランは持っておくつもりだ。アレだ、狩った鹿の首を記念に飾る様なものだ。
バッグの中身には教科書や筆箱。その他保護者に渡すプリントなどが入っていた。見応えがあったのは、生活ノートと、開封済みのラブレターである。
どうも、この少年は秋田健朗とか言って、年の離れた妹の世話をよくみる、家族思いのいい子で、その為にも部活とかもやっていないんだとか。妹だけではなくて例外なく笑顔を振りまき、優しく献身的な少年。勉強は少し苦手だけど、その分努力家だと。ラブレターに書いてある分はかなり美化されているように感じるが、生活ノートでも綺麗な字で、丁寧な文体に謙虚な内容。性格の良さがひしひしと伝わってくる。きっと、このラブレターに答えるかどうか、考えながら下校していたのだろう。
読み終わる頃には活け造りも完食し、食べられない頭部も鍋に入れて煮込んだ。理想とは確かに形に出来るのだなあとしみじみした夜だった。
片付けもして、いざ寝ようとした時、強烈な吐き気に襲われて、全部吐き戻した。
血液の催吐性の話も聞いた事があるし、学ランに直で乗せたのがよくなかったのかもしれない。人間とはいえ、食中毒も危惧するべきだったか。
それか、罪悪感の現れか。
私はね、怖いですよぉ……。なんなのこれ。衝撃だすわ。
この小説の周りでいろんな問題起きそうですよ。
説明すると、この作品は中二病全盛期・個人サイトに一番ハマっていた時期にかいた物で、その時、ストーリーよりも表現にこだわっていたんです。
その頃の私が見ていた個人サイトのジャンルというのが、鬼畜・スプラッター系で、まあなんとも劣悪に組み合ってしまい、結果、蛞蝓の海や、他の作品に通じる様、グロテスクな作品になってしまったと。
ほんで、久々に読み返したんですけど、攻めてんねー。少年ロマンは書いてて別にそんなグロくないと思ってたし、蛞蝓の海が一番ヤバいかなと思っていたんだけど、違うベクトルでヤバいですよ。
社会問題になるかも……ならないか。一日に二桁しか人こない……ので、この読み終わった感覚を共有したいからあえて、ヤバいところを直しませんでした!
そんなじゃなかったらごめん。自信作だったからオーバーになっちゃったかも。
さくらのインターネットはこれを許してくれるはずです! 『かの狂気太郎さんもこのレンサバ使ってるしな』で適当に選んですから!
ちなみに、電子包丁は、そういう物からかけ離れた明るく楽しいサイトですよ!